イエナプラン教育とは

オランダ・イエナプラン教育の特徴

1. ビジョンの重視

ペーターセンからフロイデンタールを経てオランダ・イエナプラン教育協会へ

ドイツのイエナ大学実験校でペーター・ペーターセンが創始した「人間の学校」は、1927年の世界新教育学会の発表の際にイエナプランと名づけられ冊子「小さなイエナプラン 」として報告されました。
それからさらに四半世紀後、スース・フロイデンタールが発見して、オランダに伝わります。オランダでは、主に、フレネ教育を信奉していた校長や教員がフロイデンタールとともにイエナプラン 教育のさらなる発展と普及に関わりました。
フロイデンタールは、ペーターセンの考えの要点を「8つのミニマム」としてまとめ(1966年)、初期にオランダでイエナプラン教育を実践しようとしていた人たちの指針としました。

こうした努力の結果、1970年代にオランダでは急速にイエナプランスクールの数が増え、さらに具体的なコンセプトを求めて1992年に「イエナプラン 20の原則」が作られました。 したがって、20の原則は、ドイツでできたものではなく、オランダ・イエナプラン教育協会がオリジナルで作成し、当時協会に参加していた会員校が全員一致で採択したものです(これについては、他の項目をご覧ください)。

2. ビジョンを形に

第1項で示されたイエナプランのビジョンは、以下の形式を通して学校活動に翻訳されます

ファミリー・グループ(根幹グループ)

異年齢(異学年)の子どもたちで構成される教室グループで通常は3つ(年少・年中・年長)の年齢の子どもたちからなる。教え合い、助け合いが活発になるとともに、違いへの尊重心を育む。毎年役割が交代し、社会に出た時のリーダーシップとフォロワーの関係、文化の継承と変革を学ぶことにもつながる。担任教師はグループ・リーダーと呼ばれグループの一員であるとともに、リーダーとして子どもたちの発達をファシリテートする。同学年ではないので、リーダーが一人一人の違いに注目するようになる。 ファミリー・グループの中には、さらに、テーブル・グループという小グループが作られ、このグループも異年齢で構成される。

イエナプランのマルチエイジの学級編成図 リビングルームとしての教室図

4つの基本活動(対話・遊び・仕事・催し)とリズミックな週計画

毎日の学校の授業は、科目で区切られるのではなく、対話・遊び・仕事・催しという4つの基本活動が、リズミックに循環するように企画される。この4つの活動は、人間の日々の生活に とってどれも欠かせない要素である。

4つの基本活動(対話・遊び・仕事・催し)とリズミックな週計画

3. 学校のハートとしてのワールドオリエンテーション

ファミリーグループ活動

イエナプランスクールの中核には、ワールドオリエンテーション(ファミリーグループ活動)と呼ばれる、科目の枠を超えた総合的な学びがすえられています。ワールドオリエンテーションは、子どもたちの経験世界にある本物の事象に対する子どもたち自身の内発的な問いに基づいて探究を行い、科学研究のプロセスを仲間とともに学ぶ協働活動です。いわゆる、教科の学びは、ワールドオリエンテーションにおける探究のためのツールとなるスキルを学ぶためのもので、反対に、ワールドオリエンテーションは、それを通して、教科的なスキルに意味を与えるものです。

4. 学校共同体

イエナプラン教育では、学校を「生と学びの共同体」と呼び、子どもたちがそこで仲間とともに生活しながら社会の一員として市民的行動を練習する場と考えます。共同体は、民主的で人間的な理想の未来社会を先取りするものとして捉え、大人である保護者と教員もそこに参加し学校共同体を構成します。その際、気をつけるべき順序は、子ども〜保護者〜教員であることで、あくまでも子どもたちを中心に、子どもたちの権利の代弁者である保護者がそれを取り巻き、その周りに教育の専門家である教員がいます。
学校共同体では、子どもたちの自治を尊重します。そこでは、学年の違いによる発言権の違いはなく、年齢が小さい子も大きい子も平等に参加します。また、ファミリーグループの中だけではなく、全校規模でのアクティビティや、高学年と低学年の子どもたちの交流が推進されます。
保護者には、自分の子どもだけでなく、学校に通うすべての子どもたちのために、学校活動に積極的に参加してもらいます。

5. ペダゴジカル・シチュエーション(子ども学的状況)作り

学校における活動は、常に、ペダゴジカル・シチュエーションを作って実施されます。それは、教育学・心理学・脳科学など、人間の発達、子どもの発達に関する最新の科学的研究の成果を常に考慮しながら、子どもたちの発達段階に応じたできるだけ良い環境や企画のもとで活動を行えるようにすることを意味しています。

ペダゴジカル・シチュエーションには大きく二つあり、一つは物理的環境(ハードな側面)、もう一つは人的環境(ソフトな側面)です。前者は、教室の形、設備の配置、学校内のスペースの使い方、校庭のデザインなどに関わり、後者は、グループ構成、時間割の作り方、教職員の役割分担、カリキュラム、特別活動や課外活動の企画などに関わるものです。

6. 自由と秩序

静寂の学校

ペーターセンは、子どもたちは、「学校に行き始めた最初の日から、自由に、自主的に学び、極めて自立的で、自分がいつどう動くかについて完全に自由である」また「本当の意味での動きの自由だ!すなわち、子どもは教室内を、それどころか、学校内を自由に動く。どの子も、完全に出たり入ったりする自由を持っているし、そういう自分の自由についてグループの子どもたちに対して責任を持っている。動くことは成長の過程にある子どもの身体にとっては食べ物に等しい。それを遮ることは、子どもの健康を害することに他ならない」と言っています。

しかし、唯一のルールとして、「教室で起こっても良いこととは、すべての人がともに欲していること、学校での秩序ある共同生活と仕事とを、この教室内にいるすべての人にとって、ちゃんと、しかも美しい形で保証するものであることのことだ」とも言っており、結果的に、学校は、子どもたちが、今やるべきことが何かを自覚して、責任を持って、他者の迷惑にならない形で実施しており、その帰結として、イエナプランの学校は「静寂の学校」と言われるほど、皆が静かにその時の課題に取り組んでいるという姿が実現されると言っています。

これは、個々の子どもが自分の自由を他者に対する尊重心とともに行使できていることを意味しています。イエナプラン教育が、個別の子どもの発達だけを強調しているのではなく、子どもの発達は、そもそも、他者の存在が意識されており、その他者との平等で相互に尊重し合う関係に基づく協働を通して、社会に出ていく準備をするものであることを意味しています。